3 離婚に伴い取決めをすること
(2)財産分与
財産分与請求権は、離婚により生じます。離婚前に財産分与の協議が成立した場合、その効果は離婚の時に発生すると考えられています。仮に、離婚前に実際に分与をしてしまうと夫婦間の贈与とみなされ、贈与税が課されることになりますので注意してください。
(a) 財産分与の種類
財産分与の種類には、①清算的財産分与②扶養的財産分与③慰謝料的財産分与の3つがあるといわれています。
①清算的財産分与
離婚調停、審判、訴訟において、中心となるのが、この清算的財産分与です。
清算的財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して取得した財産を、離婚時にそれぞれの貢献度に応じて清算するというものです。この財産の中には、夫婦の共有財産のほか、夫または妻の名義になっていたとしても夫婦が協力して取得した財産(実質的共有財産。例えば預貯金など)であれば、これも含まれます。
しかし、夫婦の一方が婚姻前から有していた財産(例えば、婚姻前の預貯金など)や婚姻中に自己の名で得た財産(例えば、相続や贈与によって得た財産)は、特有財産(民§762Ⅰ)とされ財産分与の対象とはなりません。また、離婚前に別居していた場合は、別居時に存在していた財産が財産分与の対象となるのが原則で、別居後に形成された夫または妻の財産は財産分与の対象とはなりません。
②扶養的財産分与
扶養的財産分与とは、夫婦間に明らかな経済的格差がある場合に、離婚により生活に困窮してしまう相手方が自立できるまでの期間、生活費を援助する目的で行う財産分与のことです。期間や方法としては、一般に1~3年程度の定期金を支払うことが多いようです。
③慰謝料的財産分与
慰謝料的財産分与とは、離婚慰謝料支払義務のある有責配偶者の慰謝料を財産分与に含ませるものです。この財産分与の中に慰謝料分を含めた場合、重ねて離婚慰謝料の請求をすることはできなくなるため注意が必要です。
このほか、過去の婚姻費用を財産分与の一部に含めて処理することもできるとされています(最判昭53.11.14)。
なお、財産分与は、当事者の協議により行いますが、協議が調わない、または協議そのものができない場合には、家庭裁判所に協議に代わる処分を請求することができます。
ただし、これには期間制限があり、「離婚の時から2年」を経過すると、財産分与の協議に代わる処分を、家庭裁判所に請求することはできなくなります(民§768Ⅱ)。
(b) 財産分与の割合
法律上、財産分与の割合についての決まりはありませんが、実務上は2分の1を原則とする考え方が定着しています。夫婦の一方が専業主婦である場合の分与割合についても、現在は原則として2分の1の割合が認められることが多いです。
(c)住宅ローン付き不動産の分与の問題点
詳しくは、「住宅ローン付き不動産を財産分与するときの問題点」をご覧になってください。
(d)財産分与を原因とする移転登記の必要書類
財産分与を原因とする所有権移転登記には、登記原因証明情報として離婚を証する戸籍謄本を添付する必要はありません。しかし、前提登記(氏名の変更など)で戸籍謄本が必要となってくる場合はあります。
そのほか、必要となる添付情報は通常の移転登記と変わりありません。なお、家庭裁判所の審判により、財産分与が確定した場合は、審判書正本(確定証明書付)を添付して、登記権利者からの単独申請によることができます(不登§63Ⅰ)。
(3)慰謝料
離婚に伴う慰謝料には、①不貞行為、暴力行為等の有責行為による精神的苦痛に対する慰謝料と、②離婚を余儀なくされたことによる精神的苦痛に対する慰謝料があります。ただし、実務上はこれらを明確に区別しないことが多いです。
慰謝料請求が認められるためには、相手方に不法行為(民§709)がなければなりません。したがって、単に性格の不一致や不仲など明白な離婚原因がなく徐々に別居に至って離婚したような場合には、不法行為が成立しないので慰謝料の請求はできません。
慰謝料請求は、前述のとおり財産分与の中で請求することもできますし、財産分与と別に請求することもできます。ただし、財産分与の中に慰謝料分を含めた場合、再度の慰謝料請求はできなくなります。
(a) 慰謝料の金額
慰謝料の金額は、不法行為の内容や相手方の経済力によって大きく異なるため一概にはいえませんが、裁判所の統計によれば、50万円から300万円くらいが多いようです。
(b)時効
時効の起算点は離婚成立の時です。慰謝料請求権は、離婚成立後3年間行使しないと時効によって消滅します(民§724)。
(c)不貞行為の相手方に対する慰謝料請求
不貞行為の相手方は、故意または過失がある限り、不貞行為について配偶者とともに共同不法行為者として、もう一方の配偶者に対し損害賠償義務を負うことになります。
ただし、不貞行為の開始時に既に婚姻関係が破綻していたような場合は、因果関係がないことから慰謝料請求は認められません。
(4)離婚時年金分割
公的年金は、国民年金を基礎として、その上に厚生年金や共済年金等を重ねる2階建ての構造となっていて、離婚時年金分割の対象となるのは、2階部分の厚生年金等です。国民年金は、夫婦それぞれに支給される制度であるため分割の対象にはなりません。
離婚時年金分割の分割割合について、当事者間の協議が調わない、または協議そのものができない場合には、家庭裁判所に対して分割割合(按分割合)を定める審判または調停の申立てをすることができます。ただし、離婚した日の翌日から起算して2年を経過した場合は、この申立てをすることはできなくなります。
(a) 離婚時年金分割制度の種類
①合意分割
平成19年4月1日以後に離婚等をした場合に、婚姻期間中の当事者の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)について、当事者間の合意または裁判手続によってその分割割合(請求すべき按分割合)を定める制度です。この分割割合の上限は、2分の1となっています。なお、平成19年4月1日以後に離婚等がされていれば、同日以降の婚姻期間だけでなく、婚姻期間全体が分割の対象になります。
②3号分割
平成20年5月1日以後に離婚等をした場合に、国民年金の第3号被保険者であった者からの請求により、平成20年4月1日以後の婚姻期間中の第3号被保険者期間における相手方の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を2分の1ずつ、当事者間で分割することができる制度です。3号分割の請求にあたっては、当事者双方の合意は必要ありません。
合意分割の請求が行われた場合、婚姻期間中に3号分割の対象となる期間が含まれるときは、合意分割と同時に3号分割の請求があったとみなされます。したがって、3号分割の対象となる期間は、3号分割による標準報酬の分割に加え、合意分割による標準報酬の分割も行われます。
(b) 離婚時年金分割の方法
分割の合意が成立した後、①合意が成立した旨を記載し当事者が署名した書類(合意書)、②合意が成立した旨が記載された公正証書、③公証人の認証を受けた私署証書のうち、いずれかを作成して、社会保険事務所に対し分割改定の請求をしなければ、分割の効力は生じません。
4 家裁におけるDVへの配慮
(1)進行に関する照会回答書
相手方からDV(ドメスティックバイオレンス)被害を受けていた場合、家庭裁判所で様ざまな配慮をしてもらえます。
例えば、離婚調停申立時に「進行に関する照会回答書」を提出することができます。これは、調停をどのように進めて行きたいかを事前に裁判所に伝える書面です。
「相手方と顔を合わせたくない」、「裁判所に来る時間や帰る時間を相手方とずらしてほしい」などの要望があれば、裁判所がいろいろと工夫をしながら進行してくれます。相手方があなたを待ち伏せたり、あとをつけたりする可能性がある場合は、あなたを先に帰らせて、相手方には30分くらいの間隔をあけて帰るように待機させることもできます。
(2)非開示の希望に関する申出書
申立書の写しは相手方に送付されますので、相手方に現住所を知られたくない場合は、かつて相手方と同居していた旧住所等を記載し、裁判所には別途「連絡先等の届出書」で実際の送付連絡先を届出ることができます。
提出予定の書面(申立書を除く)の一部に、裁判所に知らせる必要がなく、相手方に知られたくない情報が記載されている場合は、該当箇所をマスキング(黒塗り)するなどして、その情報が書面に現れないようにすることもできます。
また、提出予定の書面(申立書を除く)の一部に、裁判所に知らせる必要があり、相手方に知られたくない情報が記載されている場合は、非開示希望の申出をすることもできます。相手方にあなたの住所や子どもの学校名を知られることであなたや子どもが社会生活を営むのに著しい支障が生じるおそれがある場合、予め「非開示の希望に関する申出書」を提出することにより、裁判所へ提出した書面を閲覧・謄写の対象から外すことができます。
ただし、非開示希望の申出は、相手方から閲覧等の許可の申立てがあった際に、閲覧等を認めるかどうか裁判所が判断する際の参考となりますが、申出が必ずしも認められるとは限りません。裁判所の裁量により相手方からの閲覧等が許可されることもあります。
5 離婚給付と税金
(1)財産分与・慰謝料・養育費を受ける人の課税の有無
財産分与を受けた妻においては、財産の種類にかかわらず、贈与税や所得税が課税されることはありません。もっとも、合意した財産分与額が婚姻中に築いた財産の半分よりも高額の場合や、そもそも妻に財産を移転させる目的で財産分与を仮装する場合などは「贈与」と認定され、贈与税が課税されるおそれはあります。
慰謝料を受け取った妻に贈与税が課税されることはありません。もっとも、慰謝料額が本来あるべき額に比べて不当に高額である場合や、妻に財産を移転させる目的で慰謝料を仮装して支払う場合などは「贈与」と認定され、贈与税が課税されるおそれはあります。
養育費を受け取る妻に贈与税が課税されることはありません。ただし、通常必要と認められる範囲を超えて、不相当に高額の財産を移転させてしまうと、贈与税の課税対象となってしまうおそれはあります。
一方、財産分与や慰謝料として不動産を取得したときは、所有権移転登記を申請する際に登録免許税がかかりますし、また、不動産取得税もかかってしまいます(ただし、租税実務は財産分与による不動産の取得が婚姻中に取得した実質的な夫婦共有財産の清算にあたる場合には、不動産取得税を課税しないという扱いをしているようです)。
(2)財産分与・慰謝料支払をした人の課税の有無
財産分与や慰謝料が金銭で支払われる場合は、給付した人に課税されることはありません。
他方、慰謝料を不動産で代物弁済した場合や、財産分与を不動産で行った場合など、無償で譲渡した場合でも、夫に譲渡益があれば、夫に譲渡所得税が課税されてしまいます。
ただし、給付した人が居住に供していた不動産を財産分与・譲渡する場合には、譲渡所得3000万円までの特別控除を受けることができます。この特別控除を受けるには、親族以外への譲渡が要件となっていますので、離婚後に財産分与等の手続を行う必要があります。