1 はじめに ~司法書士が支援できること~
離婚を決意すると、子どもの親権(監護権)、養育費、面会交流、住宅ローン付不動産の分与など、離婚後の数多くの問題を解決していかなければならず、精神的な面でかなり強いストレスを受けるであろうことは容易に想像できます。
また、婚姻関係が破綻してしまうと、感情的になって、養育費等の取決めを後回しにして、直ぐに離婚届に判を押してしまうなど、理性が働かずに割り切って解決するという方法が選択しづらいこともあります。
このような場合は、当事者同士で直接話し合いをするよりも、家庭裁判所の調停で調停委員に間に入ってもらうことで、話し合いが円滑に進むこともあります。また、1件の夫婦関係調整調停(離婚調停)を申立てれば、離婚そのものだけでなく、離婚後の子どもの親権者、養育費、面会交流、離婚に際しての財産分与や年金分割、慰謝料請求についても付随的に取り決めを行うこともできます。
司法書士は、弁護士と違い家事事件(家庭に関する事件)の手続代理人としての資格はありません。あくまでも書類作成支援業務として、ご本人の言い分を正確に聴き取り、適切な法的判断を加え、法的に完備した書面を作成していくことが中核になります。したがって、調停にはご本人に出席していただくしかありません。しかしながら、司法書士は単に書類を作成してあとは本人に任せっぱなしでは勿論ありません。調停進行中でも支援を欠くことはありませんし、必要があれば調停に同行することもできます。誠心誠意サポートしますので、安心してお任せください。
2 離婚のための手続
(1)協議離婚と裁判上の離婚
離婚には、「協議離婚」と「裁判上の離婚」があります。
夫婦は、その協議で、離婚をすることができます(民§763)。夫婦間で離婚の合意が成立すれば、あとは役所に離婚届を提出すれば離婚の効力が生じます(創設的届出)。令和2年の厚生労働省の調査では、協議離婚が離婚全体の約9割を占めています。
ただし、協議離婚は、離婚することだけを先行してしまい、養育費などの取決めが疎かになっているケースもあります。また、納得できないまま離婚をしていたり、不利益な条件で離婚をしているケースも見受けられます。
もし、相手方が協議離婚に応じてくれないか、または応じることができない場合(相手方が所在不明の場合など)には、裁判所に関与してもらう形で離婚をするほかありません。
この「裁判上の離婚」には、①調停離婚、②審判離婚、③裁判離婚、④和解離婚(訴訟上の和解による離婚)、⑤請求の認諾による離婚があります。
(2)調停離婚
人事に関する訴訟事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければなりません(家事§257Ⅰ)。これを調停前置主義といいます。
離婚の訴えは人事に関する訴訟事件ですので、離婚の訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に離婚調停(夫婦関係調整調停)の申立てをしなければなりません。ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、この限りではありません(同§257Ⅱ)。この「事件を調停に付することが相当でない」場合としては、相手方が所在不明である場合などが考えられます。
調停で離婚の合意が成立したときは、調停調書が作成されます。この調停調書は確定判決と同一の効力があります(同§268Ⅰ)。
なお、相手方が調停に出席しない場合は、調停は不成立として終了することになります。
(3)審判離婚
審判離婚とは、当事者双方が審判を望んでいる場合や、些細な点で調停が成立しなかった場合など、家庭裁判所が相当と認めるときに、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を考慮して、職権で、事件の解決のために必要な審判(調停に代わる審判)をすることで成立する離婚です(家事§284Ⅰ)。具体的には、子どもの親権に関する事情などで早急な結論を必要とする場合などに限られ、調停が成立しなかった場合に、事件が当然にこの審判へ移行するわけではありません。
原則、調停が不成立として終了した場合に、それでも離婚を希望するときは、法律上最後の手段として離婚訴訟を提起するしかありません。
(4)裁判離婚
裁判離婚とは、調停が成立しなかったとき、または調停に代わる審判が異議申立てにより失効したときに離婚訴訟により離婚をすることです。離婚訴訟は、民法770条1項の離婚原因を主張して判決を得ることにより初めて離婚の効果が発生する訴え(このような訴えを形成の訴えといいます)であると解されています。
つまり、この離婚訴訟で勝訴の確定判決を得れば、離婚の効果が生じます。役所に離婚届を提出する必要はありますが、この届出は協議離婚のような創設的届出ではなく、報告的届出です。離婚の法律効果自体は、判決の確定により生じているからです。
注意すべきは、裁判上の離婚原因(民§770Ⅰ)があるからといって、請求が認められるとは限らないということです。例えば、同項1号に「配偶者に不貞な行為があったとき」が挙げられていますが、浮気の事実が認められたとしても、「一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる」と民法770条2項に規定されているのです。つまり、相手方配偶者の不貞の事実を証明できたとしても、離婚という結論が適切とはいえないと裁判官が判断すれば、離婚の請求を棄却することができるのです。これは、裁判制度全体の中でもきわめて特殊なことです。
なお、離婚訴訟においては、訴訟上の和解により離婚が成立することもあります(和解離婚)。
3 離婚に伴い取決めをすること
離婚に際しては、「離婚すること」、「財産分与」、「離婚時年金分割」を取り決め、夫婦間に未成熟子がいる場合は「親権者」、「養育費」、「面会交流」、相手方に不法行為(不貞行為、暴力行為など)がある場合は「慰謝料」についても取り決めることになるでしょう。
離婚をする際に必ず決めなければならないことは「離婚すること」と、未成熟子がいる場合の「親権者」の二つのみですが、それ以外の項目についても取り決めを行うことが望ましいでしょう。
ここでは、「養育費」、「財産分与」、「慰謝料」、「離婚時年金分割」など、離婚に伴う財産給付についての取決めについてご案内いたします。なお、これらは離婚後に取り決めることも可能ですが、それぞれ時効や除斥期間が設けられていますので、その点はご注意ください。
(1)養育費
(a) 養育費とは
養育費とは、未成熟子が独立した社会人として自立するまでに要するすべての費用のことをいいます。未成熟子を引き取って養育する親(監護親)は、他方の親に対してその養育費(監護費用)を請求(求償)することができます。親は、未成熟子に対して生活保持義務(自身の生活と同程度の生活を保障する義務)を負っているからです。なお、未成熟子本人も、直系血族間の扶養義務として、親に対して養育費(扶養料)の請求をすることができます。
(b) 養育費の金額
養育費の金額については、父母の収入や子どもの年齢・人数によって異なりますが、月々の支払額を簡便に算定できる資料として、裁判所のウェブサイトに養育費・婚姻費用の算定表が掲載されています。現在、家庭裁判所の調停や裁判では、この算定表を基に養育費の金額を決めているのが一般的なようです。
(c)養育費をめぐる状況
厚生労働省による「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果」によれば、養育費の取決め状況は、「取り決めをしている」が母子世帯で46.7%、父子世帯で28.3%となっています。
母子世帯の離婚方法別の養育費の取決めをしている割合では「協議離婚」では43.6%、「その他の離婚(裁判上の離婚)」では81.2%と2倍近くになっています。父子世帯での同割合では「協議離婚」では24.1%、「その他の離婚」では53.4%とこちらも2倍を超えています。
取決めをしていない理由は、母子世帯では「相手と関わりたくない」が34.5%と最も高く、次いで「相手に支払う意思がないと思った」が15.3%、「相手に支払う能力がないと思った」が14.7%となっていて、父子世帯では「自分の収入等で経済的に問題がない」が22.3%と最も高く、次いで「相手と関わりたくない」が19.8%、「相手に支払う能力がないと思った」が17.8%となっています。
このような現状から、養育費がなければ生活が困窮してしまうような経済状況にある世帯ほど、離婚問題の解決を急ぐあまり、養育費の取決めをせずに離婚に至ってしまっている事情がうかがえます。なお、離婚が成立した後でも、家庭裁判所の養育費の調停・審判手続きを申立て、養育費の取決めを行うことが可能です。
(d)養育費の取決め方法
ⅰ)協議離婚の場合
協議離婚による場合、離婚に際して、養育費、慰謝料、財産分与などの取決めを行い、これを「離婚給付等契約公正証書」として作成する場合が多いようです。すなわち、金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書に、強制執行認諾条項を入れておくと、相手方が約束どおり養育費等の支払をしない場合でも、裁判所にその支払請求訴訟を提起せずに、公証役場で執行分の付与を得て、相手方の財産を差し押さえることができます(民執§22⑤)。
ただし、この強制執行認諾条項は、「金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求」についてのみ効力があり、不動産を財産分与する場合の引渡し等には効力がありませんので、注意してください。詳しくは「養育費の未払いに備えた公正証書作成の注意点」をご覧になってください。
ⅱ)裁判上の離婚の場合
調停離婚や審判離婚の場合は、合意内容等を記載した調停調書や決定の内容が記載された審判書が作成されます。また、裁判離婚の場合は、判決の内容が記載された判決書や、和解が成立した場合は和解内容等を記載した和解調書が作成されます。これらは、すべて債務名義になりますので、各書面で養育費の取決めをしたにもかかわらず、その支払がない場合には、履行勧告や強制執行も可能になります。
ただし、それぞれの内容は裁判所が決めてくれるわけではありません。相手方に求める内容を自ら起案しなくてはなりません。調停調書の条項を例にすれば、①誰が、②誰に対し、③どの子どもの養育費として、④期間をいつまで、⑤いくらを、⑥毎月何日までに支払うかが記載されますので、これらを隈なく記載した条項案を作成します。その際には、多様な解釈の余地のないような条項案で、かつ、あとで誰が見てもわかるような簡単明瞭な条項案を作成することが重要です。
養育費の取決めをしていたにもかかわらず、その履行がされない場合には強制執行その他の手段を用いて、履行の確保を図ることができます。
(e)養育費の支払の確保
詳しくは、「養育費の履行を確保する」をご覧になってください。
(f)相手方の財産を調査する方法
詳しくは、「相手方(債務者)の財産を調査する方法」をご覧になってください。
※財産分与・慰謝料・年金分割編に続きます