遺言書を書いてみませんか?(第6回)

 第6回目となる今回は、公正証書遺言作成の流れについてご説明させていただきます。

6 公正証書遺言を作成するときの流れ

(1)まずは遺言書の草案(ドラフト)を作成します

ア 遺言条項案の作成
 最低限、相続財産の全部または一部を推定相続人のうちの誰に相続させるのか、もしくは推定相続人以外の誰に遺贈するのかをお決めます。

イ 遺言執行者の選定
 預貯金の払戻しや不動産の相続手続をする際、遺言執行者の定めを設けておけば、手続がたいへん楽になります。遺言執行者の定めがない場合で、他の相続人の協力が得られない場合は、家庭裁判所に遺言執行者選任の申し立てを行う必要があるからです。

(2)公証役場の選択

 公証役場は全国に約300か所あり、全国どこの公証役場に属する公証人に対しても嘱託することが可能です。ただし、実務上は、遺言者の居所の最寄りの公証役場所属の公証人に嘱託するのが一般的です。
 公正証書遺言は、遺言者が公証役場に赴いて作成するのが原則ですが、遺言者が病気または高齢等のために公証役場に赴くことができない場合は、公証人が病院や自宅などに赴いて遺言を作成することも可能です。この場合、公証人の手数料が約5割加算されるほか、日当と交通費も別途加算されることになります。

(3)事前準備

ア 公証人とのやりとり
 嘱託する公証役場が決まったら、事前に作成した遺言書の草案をメールまたはFAXで送信します。その草案を基に公証人と協議を重ね、必要に応じて修正を加えていき、公正証書遺言の原案が完成します。

イ 公証役場に提出する資料の準備
 公正証書遺言の作成には、以下の資料の提出が必要になります。
 
①遺言者本人の本人確認資料(印鑑証明書または運転免許証等顔写真入りの公的機関発行の身分証明書)
②財産を相続させる場合は、遺言者と相続人との続柄がわかる戸籍謄本
③財産を相続人以外の方に遺贈する場合は、その方の住民票(法人の場合は、履歴事項証明書)
④財産の特定に必要な資料
・不動産の場合は、登記簿謄本と固定資産税評価証明書または固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書
・預貯金の場合は、通帳の写し
⑤遺言者の職業をメモ書きしたもの
⑥遺言者が証人を用意する場合は、証人予定者の氏名、住所、生年月日及び職業をメモ書きしたもの
⑦遺言執行者を指定する場合は、遺言執行者の氏名、住所、生年月日及び職業をメモ書きしたもの

 上記のうち、①~④は、公証役場から事前にメールまたはFAXで送付するよう指示があるのが通常ですので、資料は早めに準備しておくことが大切です。また、⑤~⑦に関する情報も事前に伝えておくことが通常です。

 上記の他にも、事案に応じて、資料が必要となる場合があります。また、嘱託する公証役場により、提出する資料が異なってくる場合がありますので、確認の上、上記以外に必要な資料の提出を求められた場合は、早めに対応します。

ウ 証人の用意
 公正証書遺言の作成には、証人2人以上の立会いが必要になりますので、あらかじめ証人を用意しなければなりません。ただし、未成年者及び利害関係人(遺言者の推定相続人・受遺者及びその親族など)は証人になることはできません。また、作成当日、遺言書に署名することが必要になりますので、自書能力のない方は、事実上証人になることができません。

 証人を用意できない場合は、公証役場から証人となるべき者(弁護士などの第三者)の紹介を受けることも可能です。ただし、その場合には、証人となるべき者に対して費用(日当)を支払わなければなりません。

(4)作成当日

ア 証人2人以上の立会い
 前述したとおり、公正証書遺言の作成には、証人2人以上の立会いが必要になります。作成当日は、証人の同一性確認のため、免許証や保険証などの身分証明書の提出が求められ、また、遺言書に署名・押印する必要があるため、印鑑(認印で足ります)の持参も必要です。したがって、証人となるべき方に対して、身分証明書と印鑑を携帯するよう事前にアナウンスすることが大切です。なお、証人は、公正証書遺言作成手続の開始から終了まで、継続して立ち会っていることが原則です。

イ 口授、筆記及び読み聞かせ
 遺言者は、公証人に対して遺言の趣旨を口授しなければなりません。そして、公証人は、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせなければなりません。法律的には、以上のように定められていますが、実務上は柔軟に運用されています。通常は、公証人が、事前に協議した遺言書の原案の内容を当事者に再確認する、という流れになるのが一般的です。

ウ 遺言者及び証人の署名・押印並びに公証人の署名・押印
 遺言者及び証人は、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名・押印します。遺言者が署名できない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができます。これに対し、証人の署名は公証人の付記の方法による省略は認められず、常に証人自身の署名が必要となります。

 最後に、公証人が、民法969条各号の方式に従って作成されたものであることを付記して、署名・押印します。その後、遺言書の正本・謄本の交付を受け、すべての手続が完了します。

➡次回(第7回)は、いよいよ最終回の「自筆証書遺言の作成方法について」です。