遺言書を書いてみませんか?(第5回)

 第5回目となる今回は、遺言できる事項についてご説明させていただきます。

5 遺言できる事項(遺言事項)とは

 遺言とは、遺言者の死亡によって一定の効果を発生させることを目的とする相手方のない単独行為です。

 遺言は、原則として遺言者の死亡の時にその効力を生じますが、遺言書に書かれている真意や内容について確認したくとも、遺言者はもはや存在しません。

 そこで、遺言書の真意を確保するために、遺言できる事項(遺言事項)については、民法や他の法律に定められたものに限られています。したがって、それ以外の事項を遺言書に記載しても、遺言としての効力は認められないことになります。

 遺言できる事項は、以下のように法定されている事項(遺言事項)に限られます。

(1)「相続に関する事項」

①推定相続人の廃除とその取消し(民§893、894Ⅱ)
②相続分の指定、相続分の指定の第三者への委託(民§902)
③遺産分割の方法の指定、遺産分割の方法の指定の第三者への委託、遺産分割の禁止(民§908)
④遺産分割における共同相続人間の担保責任に関する別段の意思表示(民§914)
⑤受遺者または受贈者の遺留分侵害における負担額の指定(民§1047Ⅰ②)

 ①の「推定相続人の廃除」は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生じます。遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければなりません。

(2)「相続以外の財産の処分」

⑥包括遺贈及び特定遺贈(民§964)
⑦一般財団法人設立のための寄附行為(一般社団法人及び一般財団法人§152Ⅱ)
⑧信託の設定(信託§2、3②)
⑨生命保険の死亡保険金の受取人の指定・変更(保険§44Ⅰ、73)

 ⑦の「一般財団法人の設立」の手続の流れの概略は以下のとおりになります。

 ❶設立者が遺言で一般財団法人を設立する意思を表示し、定款に記載すべき内容を遺言で定めます。
 ❷遺言執行者が、遺言に基づいて遅滞なく定款を作成して公証人の認証を受けます。
 ❸遺言執行者が、財産(価額300万円以上)の拠出の履行を行います。
 ❹定款で設立時評議員、設立時理事、設立時監事等を定めなかったときは、定款の定めに従い、これらの者の選任を行います。
 ❺設立時理事が設立時代表理事を選定し、設立時代表理事が主たる事務所の所在地を管轄する法務局に設立登記申請を行います。

 ⑨の遺言による「生命保険の受取人の変更」の場合は、その遺言が効力を生じた後、保険契約者の相続人がその旨を保険者に通知しなければ、これをもって保険者に対抗することはできないとされています(保§44Ⅱ)。

(3)「身分に関する事項」

➉認知(民§781Ⅱ)
⑪未成年後見人の指定(民§839Ⅰ)
⑫財産管理のみの未成年後見人の指定(民§839Ⅱ)
⑬未成年後見監督人の指定(民§848)

 ⑩の遺言による「認知」の場合は、遺言者が死亡した時に認知の効力が生じます。遺言執行者は、その就任の日から10日以内に、認知に関する遺言の謄本を添付して、認知の届出をしなければならないとされています。

(4)「遺言の執行に関する事項」

⑭遺言執行者の指定及び指定の委託(民§1006)
⑮遺言執行者の報酬の定め(民§1018Ⅰ但書)
⑯遺言執行者の復任権等(民§1016Ⅰ但書、1017Ⅰ但書)

(5)「解釈上遺言でできるとされている事項」

⑰特別受益の持戻しの免除(同903Ⅲ)
⑱無償剰余財産を親権者に管理させない意思表示と管理者の指定(同830、869参照)
⑲祭祀の承継者の指定(同897Ⅰ)

 ⑲の「祭祀主宰者」は、第1に被相続人の指定により、第2に被相続人の指定がない場合には慣習により、第3に被相続人の指定もなく慣習によっても明らかでない場合は家庭裁判所の審判により定まります(民§897)。

 このようにして決定された祭祀主宰者は、法律上当然に祭祀財産を承継しますが、相続の承認や放棄の規定がないため、承継を放棄したり、辞退したりすることはできません。ただし、祭祀財産を承継したからといって祭祀義務を負うわけではないとされています。

※上記のほか、遺贈に関して遺言により別段の意思を表示することができます(受遺者による果実の取得〈民§992但書〉、受遺者の死亡による遺贈の失効〈民§994Ⅱ但書〉、遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属〈民§995但書〉、相続財産に属しない権利の遺贈〈民§997Ⅱ但書〉、遺贈義務者の引渡義務〈民§998但書〉、負担付遺贈〈民§1002但書〉、負担付遺贈の受遺者の免責〈民§1003但書〉)。

 このように、(1)~(5)以外の事項を遺言の対象としても法律上の効果は生じません。例えば、「葬儀」や「埋葬方法・納骨場所」についての事項は、付言事項であるため、たとえ遺言の中に記載したとしても法的効力は生じず、相続人らに対して事実上自らの希望を伝えるという意味しか持ちません。

 しかし、遺言の最後に、葬儀や埋葬方法の希望、家族たちへの想い、遺言における財産の分配方法についての理由などを、「付言事項」として書き残しておくことは、家族の人たちに遺言者の想いを伝え、遺言の趣旨を正確に理解させる手助けとなります。

 また、遺族の人たちに対して遺言の趣旨に添った行動をとらなければならないという決意を生じさせる契機ともなるので、近時、この付言事項を書かれる遺言者も増えてきています。

➡次回(第6回)は、「公正証書遺言作成の流れについて」です。