遺言書を書いてみませんか?(第1回)

 あなたは、生前に遺言書を作成することによって、あなたが亡くなった後のご自分の想いを相続人やお世話になった方に遺すことができます。

 15歳以上で意思能力さえあれば、誰でも自由に遺言をすることができます。また、作成した遺言を、後に、撤回したり変更したりすることも自由にできます。

 もちろん、遺言をする、しないは自由です。しかし、遺言書を遺しておけば、相続人間のトラブルを未然に防ぐことができますし、相続人の遺留分*を侵害しない限り、あなたが大切に想っている方に多めに財産を遺すこともできます。(*遺留分については、第3回でご説明します。)

 そこで、第1回目となる今回は、円満な相続のために遺言書を遺しておくとよい場合について例を挙げてご説明させていただきます。

1 遺言書を遺しておくとよい場合とは…?

(1)夫婦の間に子供がいない場合

 夫婦の間に子供がいない場合、法定相続人は配偶者と亡くなられた方の兄弟姉妹となり、配偶者の法定相続分は4分の3、兄弟姉妹の法定相続分は4分の1の各割合で分け合うことになります。

 しかし、遺言によって、全財産を配偶者に相続させたとしても、兄弟姉妹から遺留分侵害額請求権が行使されることはありません。なぜかというと、兄弟姉妹には、遺留分がないからです。

 遺された配偶者の老後の生計を考えると、可能な限り配偶者に資産を承継させたいと思う方も多いでしょうし、それによって遺された配偶者への想いを伝えることができます。

 加えて、見逃せないのは配偶者の相続税額の軽減の特例です。これは、実際に取得した正味の遺産額が、①1億6000万円、あるいは②配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額まで、配偶者に相続税がかからないという制度です。この制度を利用すれば、相続税の負担なしに遺産を相続させることも可能です。

 したがって、夫婦間に子供がいない場合は、遺言書を書いておくことをお薦めいたします。遺言さえしておけば、財産を全て愛する配偶者に遺すことができます。

(2)内縁の妻や同性婚のパートナーがいる場合

 現状、内縁の妻や同性婚のパートナーに相続権はありません。

 長年、夫婦として連れ添ってきても、婚姻届を出していないかぎり、いわゆる事実婚となり、法律婚以外の配偶者には相続権が認められません。

 したがって、内縁の奥様やパートナーに遺産を遺したいという想いがあるのであれば、必ず遺言をしておかなければなりません。

(3)お世話になっている相続人以外の親族にも財産を遺したい場合

 例えば、自分の身の回りの世話や介護を献身的に行ってくれている長男のお嫁さんがいる場合、そのお嫁さんにも財産を遺してあげたいと思うことも多いと思います。

 しかし、法律上、お嫁さんには相続権はありません。したがって、お嫁さんに財産を遺してあげたいと思う場合には、必ず遺言をしておかなければなりません。

※なお、長男のお嫁さんのように相続人以外の親族で被相続人の生前における財産の維持や増加、あるいは被相続人の療養看護などの特別の貢献をした者(「特別寄与者」といいます。)については、相続人に対して金銭(「特別寄与料」といいます。)の支払いを請求することができるようになりました。

特別寄与料の金額については、原則として当事者間の協議によって定められますが、協議がまとまらないときや協議ができないときは、家庭裁判所に対して特別寄与料を定めてほしいと申し立てることができます。

(4)推定相続人の中に先妻の子と後妻がいる場合

 推定相続人(あなたが今亡くなると法定相続人となる方)の中に先妻の子と後妻がいる場合、先妻の子は先妻が監護親になり、後妻とは交流がない場合が多いと思います。

 普段あまり接点のなかった者同士が相続人となる場合には、いざ相続が始まると、遺産分割をめぐって争いが起こる確率もが高いので、争いの発生を未然に防ぐためにも、遺言できちんと財産の最終的帰属を定めておく必要性が高いと言えるでしょう。

(5)推定相続人の中に判断能力を欠く方や行方不明者がいる場合

 推定相続人(あなたが今亡くなると法定相続人となる方)の中に判断能力を欠く方(以下、「成年被後見人等」といいます。)や行方不明者がいる場合、これらの方を除外して遺産分割協議を行うことはできません。

 では、どうするのかというと、原則として、成年被後見人等については成年後見人等を、行方不明者については不在者財産管理人を選任する必要があります。

 いずれも家庭裁判所に対して申立てを行いますが、成年後見人等に弁護士や司法書士などの第三者が選任された場合は、毎月裁判所が定める一定の報酬を支払う必要があります。不在者財産管理人には、一昔前は、推薦すれば近しいご親族などが選任されることもあったようですが、最近はご親族を推薦しても弁護士などが選任される傾向にあるようです。その場合は、弁護士などの報酬として予納金を納める必要があります。

 これらの申立ての手続を行うにも負担が大きいのに、そのうえ経済的な負担まで負うことになると、残された相続人には酷です。

 そこで、遺言書を書いておけば、少なくとも遺産分割の段階で成年後見人等の選任や不在者財産管理人の選任は不要となり、残された相続人の負担は大きく軽減されることになります。

(6)推定相続人間の不仲が顕在化している場合

 既に推定相続人(あなたが今亡くなると法定相続人となる方)間で、不仲が顕在化しているような場合は、遺産分割協議を巡って争いが生じるであろうことは容易に想像がつきます。このような場合、どのような考えで各相続人の相続割合を増減させたのかについて遺言書を書いておけば、少なくとも相続人間の紛争を和らげる効果が期待できます。

(7)個人で事業や家業を経営している場合

 個人で事業や家業を経営している場合、その事業等の財産的基礎を複数の相続人に分割してしまうと、事業の継続が困難となります。このようなことを避け、その事業を特定の後継者に確実に承継させたい場合には、遺言が必要になります。

(8)相続人が全くいない場合

 相続人が全くいない場合*には、特別な事情がない限り、遺産は国庫に帰属することになります。このような場合に、特別にお世話になった人に財産を贈りたいとか、お寺や教会、社会福祉関係の団体、自然保護団体、或いは各種の研究機関等に寄付したい場合には、その旨の遺言をしておく必要があります。(*相続人がいない場合については、第2回で詳しくご説明します。)

 上記の場合のほか、「相続人ごとに特定の財産を指定して承継させたいとき」、「障がいのある子に多くの財産を相続させたいとき」、「相続権のない孫にも財産を遺してあげたいとき」、「認知をして、財産を相続させたい子がいるとき」などにも、遺言を遺しておいた方がよい場合があります。

➡次回(第2回)は、「相続人の範囲について」解説いたします。