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相続・相続対策のこと

所有不動産記録証明制度の概要

はじめに ~登記所で「名寄」が取得できるようになる?~

 相続登記の義務化に伴い、相続人が被相続人(亡くなられた方)名義の不動産を把握しやすくするための新たな制度が令和8年2月2日に施行されます。これを、所有不動産記録証明制度といいます。

 これは、全国の不動産の中から、ある特定の人が登記名義人となっている不動産を網羅的に抽出して、その結果を公開する仕組みのことです。

 これにより、所有者である本人はもちろん、その相続人等は、手数料を納付して、所有不動産記録証明書の交付を請求することができるようになります。

 被相続人が自宅以外の不動産を所有している場合、相続人の中には、被相続人がどこの不動産を持っているのかを正確に把握しきれていない方も少なくありません。

 この記事では、新設される所有不動産記録証明制度が従来と比べて、優れている点について解説します。

1.固定資産税納税通知書

 被相続人が不動産を所有している場合、市町村役場から「固定資産税・都市計画税納税通知書」が毎年4~6月頃に送られてきているはずです。この通知書を見れば、大体、被相続人がどこの不動産を持っているかがわかります。ですので、まずは被相続人宛てに送られてきた「固定資産税・都市計画税納税通知書」を探してみましょう。

 この「通知書」は通常3~5枚綴りになっており、表紙をめくると「課税明細書」のページがあり、そのページに土地であれば「地番」、建物やマンションであれば「家屋番号」などが記載されています。まずは、それを基にして登記事項証明書を取得し、現在の名義人が被相続人になっていることを確認することになります。 

 ところが、この「固定資産税・都市計画税納税通知書」には、固定資産税・都市計画税が課税されている土地・建物についてのみ記載されており、『非課税物件』は原則記載されません。『非課税物件』とは、例えば「公衆用道路」、つまり私道などです。特に、固定資産税の非課税を受けるため、セットバック部分や隅切り部分を分筆している場合は「納税通知書」に記載されなくなりますから、それだけ相続財産漏れの可能性が高まります。

 また、私の経験上、よく郊外の山林や農地などの移転登記を依頼されるのですが、売主から「納税通知書」を送ってもらった際に、対象物件の記載がないことがよくあります。そもそも、所有する固定資産の課税標準額の合計額が一定の金額に満たない場合には、固定資産税は課税されないことになっているようですので「納税通知書」が送られてこないようなこともあるようです。

 さらには、被相続人が単独で不動産を所有しているのではなく、他者と共有している不動産の場合、原則共有者のうちのお一人に対してのみ「納税通知書」が送られてくるようです。誰に送られてくるかは、通常、共有持分が一番多く登記されている人で、もし持分が同じであれば登記記録に最初に出てくる人のようです。

 したがって、持分が少なかったり、登記記録の最初に記載されていないような場合は「納税通知書」が送られてきていない可能性があります。この場合も、相続財産漏れの可能性は高まります。

 このように「固定資産税・都市計画税納税通知書」を確認することによって被相続人が所有していた不動産が把握できることもあれば、把握しきれないこともあります。

2.名寄帳

 「固定資産税・都市計画税納税通知書」では、被相続人が所有していた不動産を把握しきれなかったと感じた場合、他に確認する資料としては「名寄帳」があります。

 「名寄帳」には、未登記建物や非課税不動産(私道等)、共有不動産も全て記載されるため、被相続人が所有している不動産を網羅的に把握するためには、最も適している資料といえるでしょう。

 ただし、「名寄帳」は自宅に送られてくるものではなく、自ら市区町村役場に出向く必要があります。取得のためには手数料を支払う必要がありますが、1通200~300円程度です。一部の自治体では、無料で閲覧できる期間を設けているところも多いので、お住いの自治体に一度問い合わせてみてはいかがでしょうか。

 注意点としては、自治体によって「名寄帳」という呼び方をしていない場合があり、「固定資産課税台帳」とか「土地家屋課税台帳」といった呼び方をしていることがあります。とはいえ、資産税課の窓口で「名寄をください」といえば、表題はともかく、「名寄帳」と同様の書類の閲覧・取得ができるはずです。

 また、そもそも「名寄帳」を取得できない自治体がありますので、事前に取得ができるかどうか自治体に問い合わせてから出向いた方がいいでしょう。

 被相続人が所有している不動産を網羅的に把握することを目的とする場合には、最も適している資料といえる「名寄帳」ですが、次のような欠点もあります。

 一つは、それが市区町村単位でしか発行されない点です。通常、不動産の多くは自宅のほか、その近辺に所有する場合が多いと思いますが、なかには自宅から離れたところにある農地や山林等を所有している場合もあります。この場合は、被相続人がその土地を所有していることを相続人の方が知らない限り、把握できないことになります。

 また、「名寄帳」は、毎年1月1日時点の情報で作成されます。1月2日以降に取得した不動産は翌年まで名寄帳には記載されません。この点は、「固定資産税・都市計画税納税通知書」の場合と同様の欠点があります。

 例えば、被相続人が相続税対策のため、急遽不動産を購入した場合は、相続人がその情報を知らない限り、売買契約書や請負契約書を探すなど別の方法で捜索しなければならないことになります。(相続税対策で購入することを相続人が知らないことはまずありえないと思いますが……。)

 そして、「名寄帳」は、冒頭でも申しあげたとおり、共有不動産も記載される資料ではありますが、被相続人が単独で所有していた不動産と共同で所有している不動産のそれは別々に作成されているため、別個に請求する必要があります。 そして、その共有者の中で代表者が指定されている場合には、市区町村によっては、その代表者の名前を伝えないと交付されないなど、例外的な対応がされる事もあるので注意が必要です。

3.所有不動産記録証明制度

 以上のとおり、「固定資産税・都市計画税納税通知書」にしろ、「名寄帳」にしろ、場合によっては被相続人所有の不動産を把握しきれない可能性のある資料であると言えますが、最近、これを補完するような制度が将来創設されようとしています。

 それが、所有不動産記録証明制度です。相続登記の申請を促進するため、国内にある不動産で、自己を登記名義人とする不動産の一覧を発行できる仕組みが新たに設けられることになりました。この制度の一環として、所有不動産記録証明書が登記所で発行されるようになります。

 令和8年2月2日に施行される予定ですので、詳細は不明な点も多いのですが、次のような制度設計が想定されています。

 ➀所有不動産記録証明書の交付請求時には所定の手数料を納付することが必要になります。
 ➁所有不動産記録証明書の取得は所有権の登記名義人又はその相続人のいずれかの者に限られますが、委任を受けた代理人も請求することができるとされています。
 また、所有権の登記名義人には、表題部所有者や法人も含まれると考えられます。
 ➂取得できる登記所は、法務大臣の指定する登記所に限られます。

 注意点としては、登記名義人が氏名(名称)や住所(本店)を別々に登記していた場合、つまり、Aさんが、従前取得した不動産をB市の住所で登記していた場合に、新たに取得した不動産をC市の住所で登記したような場合は、別人とみなされ、所有不動産記録証明書の一覧性が意味のないものになってしまいます。ですので、不動産を売却する時だけではなく、氏名(名称)や住所(本店)が変わった場合は、こまめに変更登記を入れておくことが大切になります。