令和5年4月27日から「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(以下、「法」といいます。)」が施行されました。
これにより、相続等により土地の所有権を取得した方は、法務大臣の承認を受けて、その土地の所有権を国庫に帰属させることができるようになりました。
これを、『相続土地国庫帰属制度』といいます。
ここでは、『相続土地国庫帰属制度』の概要を、
(1)申請できるのは誰か
(2)国庫帰属までの流れ
(3)費用はどれぐらいかかるのか
(4)引き取ってもらえる土地の要件、という4つのポイントから解説します。
〔凡例〕
「令」 … 「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行令」
「規則」 … 「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行規則」
(1)申請できるのは誰か
申請できるのは「相続または遺贈により土地を取得した方」です(法1条)。
遺贈により土地を取得した場合、取得した方は法定相続人に限ります(同条)。
相続等により土地の共有持分を取得した方も申請することができます。ただし、この場合は共有者全員が共同して申請するときに限ります。このとき、他の共有者が相続・遺贈以外の原因によって共有持分を取得した場合であっても構いません(法2条2項)。
(2)国庫記憶までの流れ
概ね次のような流れになります。
❶承認申請書の作成・提出・審査手数料の納付 ➡ ❷審査 ➡ ❸承認・負担金の納付 ➡ ❹国庫帰属
①承認申請書の作成
承認申請書は、原則、土地の一筆ごとに作成します(規則4条)。
承認申請書には、一定の事項を記載し、承認申請者等が記名押印しなければなりません(法3条1項各号)(規則2条1項各号、同条2項各号)。そして、原則、記名押印した方の印鑑証明書を添付しなければなりません(同条3項)。
承認申請書には、承認申請者等の電話番号その他の連絡先を記載しなければなりません(規則2条2項1号)。これは、申請書の内容確認や、現地調査についての案内を行うために担当職員から連絡があるかもしれないからです。連絡先に連絡がつかないときは、申請が却下される場合があります。
②添付書類の作成等
承認申請書には、いくつかの添付書類が必要です(法3条1項)(規則3条各号)。
このうち、「承認申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面」(同条4号)、「承認申請に係る土地の形状を明らかにする写真」(同条5号)、「承認申請に係る土地と当該土地に隣接する土地との境界点を明らかにする写真」(同条6号)が特に重要です。
作成した書類は、提出前に法務局で事前に確認してもらった方がいいでしょう。
③申請先
承認申請者は、承認申請書および添付書類を法務大臣に提出しなければなりません(法3条1項)。
ただ、実際の申請先は、申請に係る土地の所在地を管轄する法務局または地方法務局です(規則1条)。支局や出張所に対しては申請できません。
④申請代理
代理が認められるのは、法定代理人(未成年後見人、成年後見人等)に限られ、任意代理による申請は認められません。
ただし、弁護士や司法書士等は、申請者本人に代わって申請書類の書類作成を代行することができます。
⑤申請書類の提出
法務局または地方法務局の申請窓口に、申請者本人または法定代理人(未成年後見人・成年後見人等)が申請書類を提出します。ただし、使者による提出も認められています(使者の場合は、その場で訂正等ができません)。
郵送申請によることも可能です。この場合は、封筒の表面に申請書が在中する旨を明記し(規則9条2項)、書留郵便かレターパックプラスで送付します(同条1項)。
⑥審査
法務局の担当職員は、提出された書類を審査し、申請された土地の実地調査など必要な調査を行うことができます(法6条2項)。この場合、承認申請者等に調査への同行を求めることもあります。
申請をしてから結果が出るまでに半年から1年程かかると見込まれています。
⑦承認・負担金の納付
審査を踏まえて、帰属の承認・不承認の結果が申請者に通知されます(法9条)。
帰属が承認された場合、申請者は、通知に記載されている負担金額を期限内(負担金の通知が到達した翌日から30日以内)に納付します(法10条1項、2項)。
⑧国庫帰属
負担金が納付された時点で、土地の所有権が国に移転します(法11条1項)。
土地の所有権移転登記は国が行いますので、申請者が登記を申請する必要はありません。
(3)費用はどれぐらいかかるのか
①審査手数料
申請者は、承認申請にあたって所定の手数料を納めなければなりません(法3条2項)。
手数料の額は、承認申請に係る土地の一筆ごとに1万4千円です(令3条)。
この手数料は、申請書に収入印紙を貼り付けて納付します(規則5条1項)。
手数料の納付後は、申請を取り下げた場合や、審査の結果、却下・不承認となった場合でも、手数料は返還されませんのでご注意ください。
②負担金
国庫帰属承認がされたときは、負担金(10年分の土地管理費相当額)を納付する必要があります(法10条1項)。
申請土地の種類は、「宅地」、「農地」、「森林」、「その他」の4つに分けられ、この区分に応じて納付が必要となる負担金が決定されます(令5条1項各号)。
申請土地が「宅地」の場合、原則として20万円の負担金を納める必要があります。ただし、市街化区域または用途地域が指定されている地域内の宅地については、面積に応じて負担金が算出されることになります(同条同項1号)。
申請土地が「農地」の場合、原則として20万円の負担金を納める必要があります。ただし、市街化区域または用途地域が指定されている地域内の農地、農用地区域内の農地、土地改良事業等の施行区域内の農地については、面積に応じて負担金が算出されることになります(同条同項2号)。
申請土地が「森林」の場合は、面積に応じて負担金が算出されます(同条同項3号)。
申請土地が「その他」(雑種地、原野等)の場合は、面積にかかわらず20万円の負担金を納める必要があります(同条同項4号)。
なお、負担金の基準となる面積とは、登記記録上の地積のことです。
③合算負担金の申出
隣接する二筆以上の土地のいずれもが同一の土地区分に属するときは、それらを一筆の土地とみなして負担金を算定すべき旨の申出をすることができ(令6条1項)、これによって負担金が軽減される可能性があります。
隣接する二筆以上の土地の所有者が異なる場合であっても申出をすることができます。この場合、隣接所有者が共同して行う必要があります(同条2項)。
④負担金の納付方法
国庫帰属の申請が承認された場合、法務局から申請者に対して、負担金の額が通知されるとともに(法10条2項)、負担金の納付に関する納入告知書が送付されます(規則19条)。
納入告知書に記載されている負担金額を期限内(負担金の通知が到達した翌日から30日以内)に、金融機関で納付します。
期限内に納付されない場合は、国庫帰属の承認が失効します(法10条3項)ので、ご注意ください。
(4)引き取ってもらえる土地の要件とは
①申請ができない土地(申請の段階で直ちに却下となる土地)
以下のいずれかの要件に該当する土地については承認申請ができません(法2条3項各号)。
1 建物の存する土地
2 担保権または使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
3 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地(令2条各号参照)
4 土壌汚染対策法上の特定有害物質により汚染されている土地
5 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属または範囲について争いがある土地
②承認がされない土地(審査の段階で該当すると判断された場合に不承認となる土地)
以下のいずれかの要件に該当する土地については申請が受け付けられても不承認となります(法5条1項各号)
1 崖(勾配が30度以上であり、かつ、高さが5メートル以上のもの)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用または労力を要するもの(令4条1項参照)
2 土地の通常の管理または処分を阻害する工作物、車両または樹木その他の有体物が地上に存する土地
3 除去しなければ土地の通常の管理または処分をすることができない有体物が地下に存する土地
4 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理または処分をすることができない土地として政令で定めるもの(令4条2項各号参照)
5 上記のほか、通常の管理または処分をするに当たり過分の費用または労力を要する土地として政令で定めるもの(令4条3項各号参照)
※土地の要件については、法務省で詳しい具体例が公表されています。要件を満たしているか不明の場合は、必ず法務局で予約を取って相談するようにしてください。
①及び②に該当するにもかかわらず、偽りその他不正の手段により国庫帰属の承認を受けたことが判明したときは、その承認は取り消され(法13条1項)、納めた負担金も戻ってきません。
また、これにより国に損害が生じた場合には、帰属承認を受けた者がその事由を知りながら告げなかったときは、その者は、損害賠償の責任を負う場合があります(法14条)。
(5)さいごに
相続を契機として土地を取得したものの、管理費用の負担感から土地を手放したいと考えている方が増えているようです。
今までは、土地を手放す方法として、主に土地を処分するか相続放棄するぐらいの方法しかありませんでした。
『相続土地国庫帰属制度』が創設されたことにより、処分が難しい特定の土地のみを国庫帰属させることができ、相続放棄のように全ての財産を手放す必要はなくなりました。
ただし、引き取ってもらう土地について法定の要件を満たす必要があり、また、相当額の負担金を支払うことも必要です。