亡くなられた方にどのような相続財産があるかきちんと把握している方は少ないのではないでしょうか?
主な相続財産として考えられるのは、プラスの財産として①不動産、②預貯金、③株式・有価証券、④自動車その他の動産、⑤生命保険、⑥債権など、逆に、マイナスの財産としては❶借入金、❷未払金、❸保証債務・連帯債務などですが、ここでは、主に被相続人の所有不動産の調査方法について解説します。
1 不動産の調査
(1)固定資産税・都市計画税納税通知書による調査
まずは、固定資産税・都市計画税の納税通知書から確認するとよいでしょう。
この『納税通知書』は、毎年4~5月に郵送され、通常3~5枚綴りになっており、表紙をめくると「課税明細書」のページがあります。そのページに、被相続人が保有している不動産の地番、地目、地積、家屋番号、床面積などが記載されているため、これを基にして登記事項証明書を取得し、現在の登記名義人が被相続人になっているかを確認すればよろしかろうと思います。
ただし、固定資産税・都市計画税は、課税標準額が30万円未満の土地、20万円未満の建物には課税されないため、このような不動産は納税通知書に記載されていない可能性があります。非課税物件の典型例は、「公衆用道路」、つまり私道です。
また、被相続人が単独で不動産を所有しているのではなく、他者と共有している不動産の場合、原則、共有者のうちのお一人に対してのみ『納税通知書』が送られてくるようですので、そもそも『納税通知書』が送られてきていない可能性もあります。
(2)権利証による調査
このような場合は、被相続人が有していた不動産の権利証を探してみることをお勧めいたします。権利証は、『登記済権利証』『不動産登記権利情報』などと表題されたホチキス等で綴じられた書類です。
権利証には私道の持分や共有不動産の持分なども載っている可能性が高いです。しかし、権利証が見当たらない場合も多いでしょう。このような場合は、次の名寄帳を取得してみるとよいでしょう。
(3)名寄帳による調査
『名寄帳』とは、納税義務者が所有している不動産の一覧のことで、不動産の所在地の市区町村にて取得することができます。自治体によって「名寄帳」という呼び方をしていない場合があり、「固定資産課税台帳」とか「土地家屋課税台帳」といった呼び方をしていることがあります。とはいえ、市区町村の資産税課の窓口で「名寄をください」といえば、表題はともかく、「名寄帳」と同様の書類の閲覧・取得ができるはずです。
名寄帳には、未登記建物や非課税不動産(私道等)、共有不動産も全て記載されるため、被相続人が所有している不動産を網羅的に把握するためには、最も適している資料といえるでしょう。しかし、一部の市区町村では非課税不動産(私道等)が名寄帳に記載されない場合があります。また、そもそも名寄帳を取得できない自治体もありますので、事前に自治体に問い合わせてから出向いた方がいいでしょう。
被相続人が所有している不動産を網羅的に把握することを目的とする場合には、最も適している資料といえる名寄帳ですが、次のような欠点もあります。
一つは、それが市区町村単位でしか発行されない点です。通常、不動産の多くは自宅のほか、その近辺に所有する場合が多いと思いますが、なかには自宅から離れたところにある農地や山林等を所有している場合もあります。この場合は、被相続人がその土地を所有していることを相続人の方が知らない限り、把握できないことになります。
また、名寄帳は、共有不動産も記載される資料ではありますが、被相続人が単独で所有していた不動産と共同で所有している不動産のそれは別々に作成されているため、別個に請求する必要があります。そして、その共有者の中で代表者が指定されている場合には、市区町村によっては、その代表者の名前を伝えないと交付されないなど、例外的な対応がされる事もあるので注意が必要です。
2 預貯金の調査
預貯金は、取引金融機関に残高証明書を発行してもらうとよいでしょう。相続税の申告が必要となることが予想される場合は、併せて経過利息計算書も請求しておくとよいと思います。
通常は取引銀行の通帳が残っていると考えられますが、通帳やキャッシュカードが見当たらない場合は、被相続人の生活圏内にある金融機関に対して被相続人の預貯金契約の存否を確認する必要があります。
金融機関では取引支店に限らず支店窓口において、被相続人の口座の有無を確認することができます。
3 上場株式の調査
被相続人が証券会社等に証券口座を開設した場合、その証券会社等から定期的に取引残高報告書等が郵送またはネットで提供されます。その報告書等をもとに当該証券会社等に残高証明書を発行してもらいます。
被相続人の取引口座が分からない場合は、大手証券会社やネット証券会社のコールセンター等に問い合わせることで、被相続人の口座の有無を確認することも可能です。
4 自動車の調査
自動車は車検証を確認することで自動車ローンの存在が明らかになるケースもありますので(ローンで購入した場合、通常は所有者が販売会社や信販会社になっています)、十分に注意してください。
5 生命保険の調査
生命保険については、保険証書が残っていればそれを確認するのが一番ですが、保険証書が見当たらない場合は、生命保険会社から定期的に送られてくる報告書、生命保険料控除証明書などの資料の形跡がないかどうか調べます。
また、銀行口座から保険料の支払がある場合には、通帳に記録が残りますので確認します。
生命保険契約があるらしいが、その内容が不明な場合には、生命保険協会に照会することにより加盟会社に対する生命保険の有無の調査ができます。
なお、生命保険金は受取人固有の財産として、通常相続財産にならないことも多いですが、契約内容によっては相続財産に含まれることもありますので、十分に注意してください。
6 債権・債務関係の調査
債権や債務関係についての調査は大変難しく、被相続人が生前に整理していない限り、把握するのは困難でしょう。しかし、特に債務関係の調査は後の手続に関して大きな影響を与えますので、早急かつ綿密に行う必要があります。
個人としての借入金があるかどうかは、信用情報機関への開示請求を行うのがよいでしょう。日本で個人に関する信用情報機関は全国銀行個人信用情報センター、株式会社シー・アイ・シー、株式会社日本信用情報機構の3つの機関がありますので、必要に応じて照会します。
信用情報機関に照会することによって、銀行借入、カード借入、消費者金融借入などの金融機関を通じた借入に関しては、ほとんど把握することが可能になります。