1 死因贈与契約のメリットとは
不動産について死因贈与契約を締結し,これを登記する場合があります。
死因贈与は,遺贈と違って,当事者間の契約により成立するという性質があり,効力発生前に仮登記をし,権利を保全することができます。
このため,迅速かつ確実に受贈者へ権利移転したい場合は死因贈与による仮登記をしておくことをお勧めします。
2 死因贈与による登記手続の問題点
死因贈与による仮登記については、仮登記権利者が単独でも申請することができます。
仮登記の申請情報や添付情報については「死因贈与契約による登記手続について」で紹介していますが、問題になるのは、贈与者が死亡し,仮登記に基づく本登記をしようとする際です(仮登記を経ずに所有権移転登記をする際も同様です)。
この際に問題となるのは、以下の点です。
①死因贈与契約書に執行者が定められていなかった
②私署証書による死因贈与契約書に贈与者の実印が押印されておらず,また,贈与者の作成当時の印鑑証明書が添付されていなかった
①の執行者の指定がない場合、贈与者の相続人全員を登記義務者とする共同申請になります。
しかし,相続人全員に委任状に実印を押印してもらい,作成後3か月以内の印鑑証明書を添付してもらうのは、かなり困難であることが予想されます。
贈与者の相続人のうち1人でも協力が得られない場合は、家庭裁判所に死因贈与契約の執行者選任の申立てを行うことになると思いますが、遺言執行者の選任の申立てのようにすんなり選任されるかどうか不確定な部分があります(実際には選任されるケースの方が多いようですが、名古屋家審平成元年4月13日などこれを否定する裁判例もあるようですので注意が必要です)。
②の私署証書により死因贈与契約書が作成された場合は、贈与者の真意を担保するとの趣旨から,死因贈与契約書には贈与者の実印による押印,かつ贈与者の印鑑証明書の添付が登記先例において求められています(『登記研究』第566号131頁)。
これは、契約書に執行者の指定があろうがなかろうが提供しなければならないとされています。
そのため,契約書に贈与者の実印が押印されておらず,印鑑証明書の添付がない場合には,やはり贈与者の相続人全員の登記手続への関与が必要となってきます。執行者の指定がない場合は①と同様ですが、執行者の指定がある場合でも贈与者の相続人全員の承諾証明情報(印鑑証明書付)の提供が必要とされています。
3 問題点を解消するには
上記の2つの問題を解決する方法には、まず、死因贈与契約を私署証書にて作成する場合には、執行者を指定しておき、贈与者が実印で押印することが考えられます。
しかし、贈与者の死亡までに、贈与契約書と印鑑証明書の管理が必要になり、場合によっては、紛失というリスクがあるかもしれません。
個人的にお勧めのもう1つの方法は、死因贈与契約を公正証書で作成しておくことです。
公正証書は、原本を公証役場で保管してくれますので、紛失のリスクがありません。また、公正証書による死因贈与契約書の中で、執行者を指定しておけば、登記手続的に次のような利点があります。
①執行者を登記義務者とすることができ、贈与者の相続人全員が登記義務者となることを防ぐことができます(『登記研究』第322号73頁)。
②贈与者の印鑑証明書や贈与者の相続人全員の承諾証明情報(印鑑証明書付)が不要になります。
さらに、公正証書による死因贈与契約書に仮登記の承諾条項がある場合、仮登記権利者が単独で仮登記を申請するときは、仮登記義務者(贈与者)の承諾証明情報(印鑑証明書付)を別途作成する必要もなく、印鑑証明書の提供も不要になります。
結局,登記手続の観点からは,死因贈与契約書を作成する場合には公正証書にて作成し、併せて執行者を指定し、仮登記の承諾条項も含めておくべきである、ということがいえます。