財産分与の対象は、預貯金、不動産、自動車等の積極財産だけでなく、住宅ローンや借金等の消極財産も含まれます。したがって、住宅ローンが残っている不動産も財産分与の対象となります。
とはいえ、住宅ローンが残った不動産を財産分与の目的とすることは、離婚時の最大の障壁といっても過言ではありません。なぜなら、住宅ローンの金銭消費貸借契約における特約条項には、金融機関の承諾なく所有権の名義を移転した場合は、期限の利益の喪失事由に該当する旨を規定している場合が通常だからです。
金融機関は、この特約を根拠に債務の一括返済を求めてきたり、抵当権の実行をすることがあります。したがって、財産分与により不動産の名義を移転する場合には、まず金融機関の承諾を得る必要があります。
1 所有名義人:夫⇒夫 住宅ローン債務者:夫⇒夫 の場合
所有名義人および住宅ローン債務者に変更がない場合は、金融機関の事前承諾の問題は生じません。ただし、夫が妻に対し不動産の財産分与に相当する代償金を支払う必要が生じるでしょう。
2 所有名義人:夫⇒妻 住宅ローン債務者:夫⇒妻 の場合
所有名義人および住宅ローン債務者を変更(債務引受)する場合は、金融機関の承諾が必要です。
ここでのポイントは、妻の返済能力の有無です。妻に返済能力がない場合は、承諾を得られないことが多いです。
また、別の金融機関で新たに融資を受けて、既存の金融機関の抵当権を抹消し、妻単独債務の新しい抵当権を設定するやり方(借換)もありますが、こちらも妻に返済能力がなければ住宅ローン債務者として審査が通らない可能性が高いです。
妻に一括返済の能力があるのであれば別ですが、ないのであれば、妻の親族等に連帯保証人になってもらう方法、妻の親族等が資金援助をする方法などを模索して金融機関との協議に臨むほかありません。
3 所有名義人:夫⇒妻 住宅ローン債務者:夫⇒夫 の場合
所有名義人は変更し、住宅ローン債務者には変更がない場合でも、金融機関の承諾を得る必要があることに注意が必要です。
この場合に考えられるリスクとしては、夫が住宅ローンの返済を滞らせたときにどうなるのか、ということです。通常、住宅ローン債務を一定期間滞納すると、保証会社から抵当権を実行されてしまうおそれが高まります。
これを回避する方法としては、返済が将来滞る可能性を見据えて、返済方法等を詳細に定めた強制執行認諾条項付きの公正証書を作成するなどの対策をしておくことが大切です。場合によっては、妻が履行引受という形で夫名義の住宅ローンを返済したり、夫に事前または事後の求償権を行使することもあります。
このほか、夫の住宅ローンの引き落とし口座に係る通帳、キャッシュカード、銀行印を預かり、残高や履歴を把握できるようにしておくこともあります。
4 財産分与による所有権移転登記の注意点
金融機関の承諾を得られなかった場合は、名義変更は住宅ローン債務完済後にするしかありません。ただし、不動産登記法105条2号の仮登記をして順位保全をすることは可能です。しかし、この仮登記をすることでさえも金融機関側は難色を示すことが多いようです。
なお、協議により財産分与が成立した場合、登記原因及びその日付は離婚届の届出日、届出日後に協議が成立したときは協議の日をもって「財産分与」とします。
家庭裁判所の調停・審判により財産分与が成立した場合は、調停の成立した日・審判の確定した日付で「財産分与」とします。このとき、調停調書、審判の主文に登記を命ずる旨の条項があれば、妻からの単独申請が可能ですが、なければ共同申請になってしまいますのでご注意ください。