例えば、妻が、別れた元夫に対して養育費請求の調停を申立て、調停が成立したとしても、元夫が調停での合意内容に従わず、妻に養育費を支払わないことがあり得ます。
実際、養育費の受給の現状は厳しく、養育費の取決めをしていたとしても、養育費の支払いが実際に継続しているケースは、母子世帯で28.1%しかありません。
離婚方法別にみると、母子世帯は「協議離婚」で26.1%、「その他の離婚(裁判上の離婚)」では49.2%となっています(厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果」)。
養育費の取決めがあるにもかかわらず、相手方(債務者)の住所や職場が変わってしまったことで、相手方の銀行口座なども不明になってしまうことも少なくありません。
そうなると、相手方(債務者)が任意に履行してくれる期待は薄く、再調査をするにしても労多くして結果を得られないケースもよくあります。
そこで、令和元年に公布された改正民事執行法(令和3年5月1日全面施行)により、財産開示手続が見直され、また、債務者以外の第三者からの情報取得手続が新設されました。
1 債務者の財産開示手続の見直し
債務者の財産に対して強制執行するには、裁判所に対し強制執行の申立てをする必要があります。そして、差押えの対象となる財産を債権者側で特定しなければなりません。
しかし、債務者がどの金融機関のどこの支店に口座を持っているのか、どの会社に勤務して給与をもらっているのかを把握することは困難です。
そこで、民事執行法では、債務者(開示義務者)を期日に出頭させ、どのような財産を持っているかを裁判官の前で陳述させる手続を定めています。これを、「財産開示手続」といいます。
今般の改正では、財産開示手続に係る申立権者の範囲が拡大され、また、不出頭等に対する罰則が強化され、手続がより使いやすく強力なものになりました。
①申立権者の範囲の拡大
これまでは、財産開示手続を利用できる債務名義については確定判決等に限定されていましたが、金銭債権についての強制執行の申立てに必要とされる債務名義であれば、仮執行宣言付判決、支払督促や公正証書(執行証書)なども認められることになり、申立権者の範囲が拡大されました。
②罰則の強化
債務者の不出頭、開示拒否や虚偽陳述に対する制裁が、これまでは過料(30万円以下)だったものが、刑事罰(6か月以下の懲役または50万円以下の罰金)へと強化されました。
なお、債権者は、陳述によって知ることができた債務者の財産に対し、別途強制執行の申立てをする必要があります。
2 第三者からの情報取得手続の新設
今般の改正では、債権者の申立てにより、第三者からも、債務者の財産に関する情報を取得することが可能になりました。
第三者から取得できる「債務者の財産に関する情報」とは、次のとおりです。
①金融機関(銀行、信用金庫、労働金庫、信用組合、農業協同組合、証券会社等)に対する預貯金債権(支店・種別・口座番号・残高)、上場株式、国債等(銘柄・額または数)に関する情報
②登記所(法務局)に対する所有不動産に関する情報
③市町村、日本年金機構等に対する給与債権(勤務先)に関する情報
ただし、③に関しては、養育費等の債権や生命・身体の侵害による損害賠償請求権を有する債権者のみが申立て可能とされています。
また、②、③の情報取得手続については、債務者の財産開示手続を先行して実施し、実施後3年以内に申立てる必要があります。
執行力のある金銭債権の債務名義の正本を有する債権者が申立てをする要件は、次のいずれかに該当することが必要です。
ⅰ)強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より6か月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかつたとき。
ⅱ)知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があつたとき。
※実際に何らかの強制執行等を実施することは要件とはなっていません。
なお、「第三者からの情報取得手続」と似て非なる「第三債務者に対する陳述の催告」という制度があります(民執§147Ⅰ)。
こちらは、第三債務者に対し、差押債権の存否等について照会する制度のことです。したがって、債権者側で債務者の財産を特定してから申立てに及ぶことになります。
差押債権者の申立てがあると、裁判所書記官が、債権差押命令を第三債務者に送達する際に、差押えに係る債権の存否等を陳述すべき旨の催告書を同封してくれます。これにより、差押債権が存在しているかどうか、差押債権が存在していたとしても第三債務者が債務者に対して反対債権を有しているかどうかことなどが判明し、仮に反対債権による相殺を予定しているという回答が来た場合は差押えが空振りに終わったということになります。