カテゴリー
裁判のこと

本人訴訟支援①~各紛争解決手続の特徴とメリット・デメリット~

1 裁判外の交渉

 多くの事件において、まず試みるのが(裁判外の)交渉です。

 交渉の過程を経ることにより、相手方の言い分・考えを把握することができ、依頼者の話のみからではわからなかった新たな事実を把握できることもあります。

 事前に当事者同士での話合いが決裂していても、第三者である司法書士が双方の言い分を整理し、事件の落としどころとその根拠を提示することにより和解に至ることもあります。

 法的手続に移行する前に、内容証明郵便等で請求することも多く、この段階で相手方から連絡が来るなど一定のアクションがあることが少なくありません。

 ただし、司法書士には訴額140万円を超える紛争に対する介入権はありませんし、また、裁判書類作成関係業務の前提として司法書士自身が交渉に関与することはできず、交渉自体は依頼者自身に行ってもらうしかありません。

 ところで、裁判外で示談書等を作成する場合、裁判所によるチェックが働きませんので、曖昧な内容の示談書等が作成され、後日の紛争の種となってしまうこともあるため、次に紹介する起訴前の和解を利用することも一考に値します。

2 起訴前の和解(即決和解)

 起訴前の和解とは、訴えを提起する前に簡易裁判所で行う和解です。

 紛争の自主的解決を促進し、訴訟を予防する目的があります。和解が成立すると和解調書が作成され、この調書は債務名義になります。

 したがって、相手方が和解に応じてくれる場合は、債務名義を獲得する手続としては最も簡便で、また、申立手数料も2000円と予納郵券代が少々かかる程度なので、最も安上がりの手続であるといえます。

 具体的な手続としては、請求の趣旨及び原因並びに争いの実情を申立書に記載したうえで、和解条項案を添付し、請求に関する疎明資料(貸金請求であれば借用書、建物明渡請求であれば賃貸借契約書等)も提出します。

 裁判所が和解条項を定めることはないため、申立人が和解条項案を作成しなければなりません。和解調書は債務名義になりますので、給付条項の部分の記載には十分注意しなければなりません。

 履行確保のために債務名義を作成しておく手段としては公正証書もありますが、執行認諾文言を付けることができるのが金銭請求に限られるので、建物明渡請求などの場合には公正証書を用いての和解はお勧めできません。手数料の面でも、起訴前の和解より負担は大きくなります。

 ただし、この制度を利用するためには、現に「争い」が存在することが要件となっており、将来の争いの可能性が存在するだけでは利用することはできません。

 また、相手方が和解期日に出頭することを要しますので、現在では大筋で話がついているような状況でなければ、相手方に出頭を求めることは難しいでしょう。

 なお、起訴前の和解の管轄は、訴額にかかわらず、相手方の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所ですが、管轄の合意が可能になっております。

3 支払督促

 支払督促は、主に金銭債権を有する者に対し簡易迅速に債務名義を与える手続です。

 申立てを行えば、裁判所書記官の書面の審査のみで債務名義を得ることができます。

 通常の訴訟とは異なり、証拠を提出する必要もなく、期日に出頭する必要もありません。また、申立書に貼付する収入印紙も通常の訴訟の半額で済みます。

 ただし、デメリットも多いと言えます。

 支払督促は、債権者の一方的な言い分だけで発付されるため、当事者間の利益のバランスを図るため、債務者には督促異議の申立権が認められています。

 実務上、債務者宛に支払督促を送達する際に、裁判所書記官が督促異議の申立用紙を同封しています。この用紙は、一般用にわかりやすく作成されていて、異議ありの欄にチェックすれば異議申立書が容易に出来上がる仕組みになっています。このため、本来ならば異議のない債務者も、資力が無いとか支払いたくないという動機で気軽に異議申立欄にチェックしてしまうという現実があります。

 債務者がこの督促異議の申立てをすると、その事件は当然に通常訴訟に移行します。通常訴訟に移行すると、最初から訴訟を提起するのに比べ、期日までの時間が長くなったり、印紙の追加納付等の負担が増えてしまったりと、結局は最初から訴訟提起したほうが素早く簡易に進められたという状態になってしまいます。

 また、その係属裁判所は相手方の普通裁判籍の地方裁判所又は簡易裁判所です。その裁判所が遠隔地にある場合は、交通費だけでもかなりの負担になってきます。

 そのため、利用場面は限られてきますが、申立人と相手方の住所地を管轄する裁判所が同一で、相手方が請求を概ね認めていて迅速に債務名義化できそうな案件や、(裁判外の)交渉段階では、相手方が対応せずにいるような場面で、相手方のプレッシャーを強め、交渉の席に引き込むといったときには選択することを検討するべき手続といえます。

4 民事調停

 民事調停は、裁判官と民間人である調停委員とで構成される調停委員会が、法による一刀両断の解決ではなく、情理をも交えて民事紛争事件の円満解決を図る制度です。

 調停委員を介することにより、第三者の意見に触れることができ、当事者同士の話し合いよりもスムーズに進む可能性があります。

 さらに、別席調停により、相手方と直接話し合わないことも可能であるため、相手方といっさい顔を合わせたくないという状態でも、調停委員を介し、話し合いを進められる可能性もあります。

 民事調停は、申立費用が低額であり手続も簡便であるため、訴訟手続きと比べ法律の知識に乏しい方が当事者となる場合でも利用しやすい制度です。

 簡易裁判所の窓口には類型別に申立書用紙が備え付けてあり、どのような紛争が生じていて、それについてどのような解決を望むのかということが記載できれば申立てをすることができます。

 また、調停では弁論主義が適用されず、調停委員が職権で事実の調査・証拠調べを行うことができ、法律知識の格差による不利益を受けづらいという利点もあります。

 最終的に当事者間の合意が成立しない場合においても、裁判所が民事調停法17条に基づく決定により、客観的・中立的な見解が示されることによって、双方が納得できる結果を得られる可能性もあります。

 調停案における決定事項は、当事者双方が納得したものであるため、調停が成立した場合には決定事項の履行率が高く、相談者の最終的な目的を達成しやすい側面もありますし、これが調停調書に記載されたときは、その調書は債務名義になります。

 その一方、相手方が調停期日に出席しなければ手続が進まないため、相手方が話し合いに応じる余地がなければ利用に馴染まず、また、期日に出頭して調停を重ねたとしても、いずれかの当事者が一歩も譲らないという姿勢をとり続ける限り、調停は不調により終了し、結局は訴訟によらざるを得なくなります。

 また、管轄が原則として相手方の住所地を管轄する簡易裁判所であるため、その裁判所が遠隔地にあるような場合は注意が必要です。

 それでも、相手方に話し合いによる解決の意思があれば有用であり、訴訟遂行能力の点で本人訴訟が難しい者でも利用できる手続です。要件事実が掴みづらい事案、判例のない新しい事案、立証が困難な事案等においては、調停手続を選択するメリットが十分にあると言えます。

5 少額訴訟

 少額訴訟は、60万円以下の金銭支払請求事件につき、審理が一期日で行われ、判決が即日言い渡され、控訴が認められない一審限りの訴訟手続です。

 簡易裁判所の窓口には定型訴状の用紙が備えられており、独力で訴状を書くことも可能です。

 強制執行についても、債権者にとって利用しやすくなっています。すなわち、請求認容判決には職権で仮執行宣言が付され、執行文は不要です。

 また、少額訴訟債権執行については、認定司法書士にも代理権が認められていますので、最後の債権回収の場面まで寄り添うことができます。

 もちろん、被告には通常訴訟への移行申述権が認められていますが、支払督促から移行する場合とは異なり、新たに何らかの負担が発生するわけではなく、当初から通常訴訟を提起した場合と比べても、依頼者に大きな不利益が生じるわけではありません。

 ただし、交通事故による損害賠償請求事件のように、訴額は低くても慎重な審理を求めたい事件については、この制度を利用すべきではありません。書証等の証拠が揃っていて、立証の難しくない事案であれば、積極的に検討すべき手続であるといえます。