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会社・法人のこと

商業登記をしないとどうなる?

1.「権利」の登記と「義務」の登記

 商業登記と不動産登記では考え方が違います。

 不動産登記では、原則、登記するかどうかは申請人の自由です。そのため、法務局や司法書士は、この登記を不動産登記とは言わず、「権利」の登記と呼んでいます(もっとも、近い将来、相続登記や名変登記は「義務」化される予定です)。

 対して、商業登記は、いったん設立登記を申請すると、その後の登記事項の変更については登記義務が発生することになります。その意味では、「権利」の登記に対し「義務」の登記といっていいかもしれません。

 会社の登記事項に変更が生じた場合は、変更が生じたときから2週間以内に、その本店所在地において変更の登記をしなければならないとされています(会社法915条1項)。

 この登記期間を遵守しないと、過料の問題が生じる可能性があります。申請人に登記義務が課せられているからです。

2.役員任期の問題

 ところで、取締役の任期は、原則、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結のときまで(以下、単に「〇年」といいます)になります。

 また、監査役の任期は4年が原則ですが、非公開会社(譲渡制限会社)に限り、双方とも最長10年まで任期を伸長することができます。これは、2年に1度の登記申請を強いるのは気の毒だから、という理由からです。

 ただし、だからといって任期を10年に設定するのも問題があります。任期途中に役員を解任したいと思ったときに、正当な理由がないと損害賠償請求をされる可能性がありますし、役員任期の管理が難しくなるという問題もあります。

3.任期満了後も役員「変更」登記をする必要がある

 いずれの役員も任期が満了すれば「退任」し、引き続き役員の地位に変更がなければ、「重任」の登記をしなければなりません。

 私たち司法書士が、いつも役員「変更」登記と呼んでいるので、任期満了後も役員の顔ぶれに変更がなければ、何もしなくてよいと誤解されがちですが、これをそのまま放置しておくと(このことを「登記懈怠」といいます)、会社の代表者個人に対して過料が処せられる可能性があります。

 過料の金額は、法的には100万円以下となっています(会社法976条1号)が、通常は登記費用に相当する金額が過料とされる場合が多いです。

 法を遵守して、真面目に登記義務を果たしている会社との均衡を保つ意味からだと思います。また、過料は法人税の計算上、損金として処理することはできませんのでご注意ください。

4.「選任懈怠」もある

 ところで、取締役会設置会社で、取締役3名のうち1名が辞任したような場合、取締役会を廃止しない限り、辞任による取締役変更の登記はできません。

 なぜなら、辞任した取締役は権利義務取締役といって、新たな取締役が選任されるまで取締役の地位に留まるからです。

 では、辞任した取締役の登記を、後任者が就任しないからといって数年の間放置しても登記懈怠として過料は課せられないのでしょうか?

 いいえ、そんなことはありません。この場合は、「選任懈怠」があったとして、同じように過料の対象とされるのです(先例:昭和38.9.12-2495)。