1 まずは、抹消書類の確認から
では、まず、お借入先金融機関から送られてきた書類一式の中から、抵当権抹消登記に必要な書類を確認していきましょう。封筒の中には、「金銭消費貸借契約証書」、「保証委託契約証書」、「抵当権設定契約証書」などが入っているかと思いますが、必要になるのは、次の3つです。
1.抵当権解除証書(標題が弁済証書、放棄証書、主債務消滅証書等になっている 場合もあります)
2.登記識別情報通知
3.委任状
以上です。ただし、平成17年以前にローンのお借入をしていた場合は、1と2の代わりの書類が入っている場合があります。これについては、後ほど説明します。
2 抵当権抹消登記の申請に必要な書類
上記の書類の具体的な説明に入る前に、抵当権抹消登記の申請書に添付する書類の一般的な名称を以下に掲げていきます。
①登記原因証明情報
②登記識別情報(又は登記済証)
③代理権限証明情報
④会社法人等番号
①の登記原因証明情報とは、文字通り、登記原因を証明する書類です。登記原因とは、例えば「売買」、「相続」、「贈与」などです。抵当権抹消登記の登記原因でいえば、「弁済」「解除」「放棄」「主債務消滅」が代表的なものです。
ただ、ここで深く考える必要はありません。要は、金融機関側が、何をもって担保物権である抵当権が消滅したのかが、登記原因証明情報の中に書かれていればいいだけなので、それを書き写せばいいだけなのです。もし、それが書かれていなければ、遠慮せず金融機関の担当者の方にお尋ねください。
3 ①の登記原因証明情報(解除証書等)をさがしましょう
さて、不動産登記の申請では、僅かな例外を除いて、登記原因証明情報の提出が必須になっています。では、封筒の中にあった書類の中で、何が登記原因証明情報にあたるかというと、1.の抵当権解除証書(標題が弁済証書、放棄証書、主債務消滅証書等になっている場合もあります)です。
(1)「解除証書」の例
では、一般的な登記原因証明情報である抵当権解除証書を実際に見てみることにしましょう。下記のような書類が一般的ではないでしょうか。
(※1) 抵当権解除証書 平成〇〇年〇〇月〇〇日〇〇〇〇法務局〇〇支局・出張所受付第〇〇〇〇〇号をもって登記された下記の不動産に対する抵当権を解除します。 解除原因 令和〇〇年〇〇月〇〇日 ◎◎◎◎◎ 令和〇年〇〇月〇〇日 東京都〇〇区〇〇一丁目〇番〇〇号 〇〇〇〇信用保証株式会社 代表取締役 〇〇〇〇 印 (会社法人等番号〇〇〇〇ー〇〇ー〇〇〇〇〇〇) 不動産の表示 (※2) 横浜市神奈川区〇〇町〇丁目〇〇〇番〇の土地 横浜市神奈川区〇〇町〇丁目〇〇〇番地〇 家屋番号〇〇〇番〇の建物 |
いかがでしょうか?ご自宅に届いた書類の中に入っていたでしょうか?金融機関によって、多少の差異はありますが、大体同じような内容だと思います。標題が、「弁済証書」、「放棄証書」または「主債務消滅証書」等となっていたとしても、中身はほぼ似通った書式ではないかと思います。要は、登記原因証明情報の中に、当事者、不動産の表示、抹消登記の登記原因が読み取れればOKです。
しかし、金融機関がくださる解除証書等には、当事者の名前、特に、登記権利者(ローンを完済されたあなたのことです)の名前が入っていない場合がほとんどです。これでは、誰に対して抵当権を解除等したのか判明しません。そこで、実務的には、(※1)の余白に、「〇〇〇〇様」「〇〇〇〇殿」と書き加えるようにしています。少なくとも私はそのようにしています。昔、ここに名前が入っていなかったことで補正になったことがあるという話を聞いたことがありますので。もちろん、〇〇〇〇には、あなたの名前を書いてください。ご自宅をどなたかと共有されている場合はお二方の名前を書き加えるようにします。
(2)不動産の表示欄に何も書かれていなかった場合
また、不動産の表示には、金融機関側であらかじめ印字してくれていると思いますが、これまた空欄になっている場合が多々あります(※2)。その場合は、手書きでも構いませんので、ご自身で書き加えなければいけません。そこで、次に、空欄になっていた場合の記載方法をみていきましょう。
通常、土地であれば次のように記載します。
所 在 横浜市神奈川区○○一丁目 地 番 3番5 地 目 宅地 地 積 250・00平方メートル |
建物であれば、次のように記載します。
所 在 横浜市神奈川区○○一丁目3番地5 家 屋 番 号 3番5 種 類 居宅 構 造 木造瓦葺平家建 床 面 積 1階 98・57平方メートル 2階 98・57平方メートル |
ご自宅が、マンションなどの敷地権付き区分建物である場合は、以下のように記載事項がもっと増えます。
一棟の建物の表示 所 在 横浜市神奈川区〇〇四丁目〇番地3 建物の名称 横浜〇〇〇〇マンション 専有部分の建物の表示 家 屋 番 号 〇〇四丁目〇番3の1710 建物の名称 1710 種 類 居宅 構 造 鉄筋コンクリート造1階建 床 面 積 17階部分 57.95㎡ 敷地権の表示 土地の符号 1 所在及び地番 横浜市神奈川区○○四丁目〇番3 地 目 宅地 地 積 10173.95㎡ 敷地権の種類 所有権 敷地権の割合 5382310分の7156 |
不動産の表示については、「自分でできる抵当権抹消登記①」でも申しあげたとおり、登記簿謄本の表題部の記載を参考に書いてみてください。
(3)簡易式の不動産の表示方法
それにしても、長々と書くことになりそうですよね。でも、実は、抹消登記の登記原因証明情報の不動産の表示については、便宜的な取り扱いが認められていて、不動産の所在、地番及び家屋番号をもって記載すれば足りるとされています。具体的には、次のような記載です。
土地であれば、次のように記載します。
横浜市神奈川区〇〇一丁目3番5の土地 |
建物であれば、次のように記載します。
横浜市神奈川区〇〇一丁目3番地5 家屋番号3番5の建物 |
マンションなどの区分所有建物であれば、次のように記載します。
横浜市神奈川区〇〇四丁目〇番地3 家屋番号〇〇四丁目〇番3の1710の建物 敷地権の表示 符号1 横浜市神奈川区○○四丁目〇番3の土地の所有権 5382310分の7156 |
上記のように簡略化できます。じつは、上記の記載の仕方は、「共同担保目録」に記載されている方法と同じです。「自分でできる抵当権抹消登記①」で「共同担保目録」付で登記簿謄本をとるように言った理由のひとつがこれです。ですので、不動産の表示が空欄で、記載方法に迷ったら、共同担保目録に記載されている表示を参考に書いてみることをお勧めします。
4 「解除証書」が入っていなかったら
なお、平成17年以前にお借入れした方は、特に注意してほしいのですが、上記の抵当権解除証書等が入っていないという方もいらっしゃると思います。
その方は、設定当時の「抵当権設定契約証書」が、封筒の中に入っていると思いますので、見てみてください。そこの末尾または欄外に、「本抵当権は、本日解除(放棄)しました」旨の奥書とともに、代表者等の記名押印がある部分がありませんか?あれば、この書類が登記原因証明情報にあたります。
もちろん、平成17年以降にお借入れした方も、こちらが登記原因証明情報になる場合もありますので注意して下さい。奥書が「本日」となっている場合は、日付印も押してあると思いますので確認してみてください。この日付が登記原因日付になります。
自宅の敷地部分が、購入当時、実は複数筆あり、後日合筆したというような場合は、「抵当権設定契約証書」記載の不動産の表示と現在の登記簿の表示に、地番や地積に齟齬が生じているはずですが、特に問題ないとして処理されていますので、加筆や修正をしないでください。
登記原因証明情報についての説明は以上になりますが、この書類は抵当権が消滅した証しとなる書類ですので原本還付の手続をとった方がいいと思います。具体的にいうと、まず、書類のコピーをとり、コピーの方に、『原本還付』と朱書きし、「原本の写しに相違ありません」と書きます。その付近に、申請者(あなた)が記名押印してください。印鑑は、申請書に押印する印鑑を用いるようにします。
5 ②の登記識別情報通知をさがしてみましょう
次に、②の登記識別情報についてですが、書類の中に「登記識別情報通知」という表題の書類が入っていると思います。この「登記識別情報通知」は、書類自体が重要なのではなく、下部の目隠しシールに隠れている12桁のパスワードが重要です。登記申請の際は、目隠しシールを剥がして、このパスワードが見える状態で写しをとり封筒に入れて提出します。初期のころ(平成17~23年)に発行されたものは、シールが剥がしにくいので慎重に剥がすようお願いします。
「登記識別情報通知」は、人ごと(金融機関ごと)、不動産ごとに通知(発行)されるものですので、自宅の土地1筆、建物1棟を担保に入れていれば、2通封筒の中に入っているはずです。
ただし、ご自宅が敷地権付区分所有建物である場合は、敷地権がいくつあろうと専有部分が1つであるかぎり1通しか発行されません。
「登記識別情報通知」には、登記名義人が誰なのか、抵当権の設定されている不動産はどこなのか等の情報が記載されています。最新の登記簿謄本で確認した抵当権者の本店・名称、自宅の土地建物の所在・地番・家屋番号、受付年月日・受付番号と「登記識別情報通知」に記載されている情報を照合して、誤りがないかどうか確認してみてください。誤りがあった場合は速やかに金融機関の担当者に連絡するようにしてください。
「登記識別情報通知」は、そのまま裸で入っている場合もありますが、金融機関側が用意した専用のビニール袋に入っていたり、司法書士が用意した小窓付きの封筒などに入っていたりもします。「登記識別情報在中」などと封筒に書いてあるので、すぐに見つかると思います。
なお、平成17年以前にお借入れした方は、上記の「登記識別情報通知」が入っていなかったかもしれません。その方は、設定当時の「抵当権設定契約証書」が、封筒の中に入っていないか探してみてください。
そこの余白に、受付年月日・受付番号、管轄法務局名とともに「登記済」と書かれた朱印が押されていませんか。「登記識別情報通知」が通知されるようになる前は、この書類が、抵当権者の権利証となっていました。この書類が入っていた場合は、登記申請書の添付情報の欄には「登記識別情報」ではなく、「登記済証」と書くことになりますのでご注意ください。
6 ③の代理権限証明情報(委任状)をさがしてみましょう
次に、③の代理権限証明情報についてですが、書類の中に「委任状」という表題の書類が入っていると思います。こちらが、代理権限証明情報になります。一般的な委任状の書式は、下記のようなものです。
委 任 状 令和〇年〇〇月〇〇日(※1) 東京都〇〇区〇〇一丁目〇番〇号 (根)抵当権者 〇〇〇〇信用保証株式会社 代表取締役 〇〇〇〇 印 (会社法人等番号〇〇〇〇ー〇〇ー〇〇〇〇〇〇)(※2) 私は、 を代理人と定め、下記登記 申請に関する一切の権限を委任します。(※3) 1.令和 年 月 日付(根)抵当権解除証書記載のとおりの(根)抵 当権抹消登記を申請する一切の件 2.登記識別情報の暗号化に関する一切の件 3.原本還付請求及び受領に関する一切の件(※4) 不動産の表示 (※5) |
金融機関によって、多少の差異はありますが、大体同じような書式になっているかと思います。では、注意点を申し上げます。
※1の委任年月日は空欄の場合があるかもしれません。この場合、いつの日付を書いてもいいわけではありません。通常、金融機関からもらう委任状の委任事項で登記原因証明情報を援用していますので、登記原因の日より前の日付では受理しないことになっています。ですので、登記原因証明情報に記載がある原因日付と同日か後の日付になっている必要があります。登記申請書を提出する日でもいいかもしれません。
※2の会社法人等番号は、登記申請書にも記載が必要な情報になります。この情報を提供しなかった場合は、別途、1か月以内に発行された金融機関の登記簿謄本が必要になってきますので、漏らさないようにお願いします。
※3の下線部には、申請者(あなた)の住所・氏名をお書きください。金融機関の中には、「私は、上記の者を代理人と定め~」のように、下線部が入っていない書式を使うところもありますので、注意してください。
※4には、大体上記のような委任事項があらかじめ記載されていますが、念のため次の委任事項を付け加えるといいかもしれません。
4.登記申請の取下げに関する一切の件
5.登記に係る登録免許税の還付金を受領する一切の件
最近は見かけなくなりましたが、※5のように「不動産の表示」が印字されている委任状もあります。先ほど申しあげたとおり、通常、金融機関からもらう委任状の委任事項で登記原因証明情報を援用していますので、本来は登記原因証明情報に不動産の表示を記載すれば、委任状には記載する必要はありません。
ですので、「不動産の表示」が印字されている場合は、空欄のままにするか、または「登記原因証明情報記載のとおり」とその下に書き込めば問題ありません。もっとも、援用していない委任状もたまに見かけますので、その場合は原則どおり記載することになります。
④の会社法人等番号は、先ほども申し上げましたが、登記申請書に記載する情報です。通常、金融機関からもらう「解除証書」等や「委任状」に記載されているはずです。
以上で、一般的な抵当権抹消登記の必要書類の確認は終わりました。次は、いよいよ登記申請書の作成に入りましょう。